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熊本地方裁判所 昭和47年(わ)51号 判決

本籍 熊本県上益城郡甲佐町大字吉田二〇六番地

住居 同県熊本市本山町六三五番地

第一相互経済研究所会長 内村健一

大正一五年六月一五日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官吉村弘出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役三年および罰金七億円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

第一被告人の経歴および第一相互経済研究所設立の経緯

被告人は、大正一五年六月一五日、肩書本籍地において、父内村光雄の次男として出生し、昭和一六年四月地元の白旗尋常小学校から旧制熊本県立御船中学校に進学し、昭和一八年四月旧海軍甲種予科練習生として鹿児島海軍航空隊に入隊し、特攻隊戦闘機搭乗員となり、終戦と共に本籍地に復員した後、昭和二二年九月第一生命保険相互会社熊本支店に保険外交員として勤務するようになり、右勤務のかたわら昭和二五年一〇月から、当時の自宅に隣接した建物で特殊飲食店を妻英子に経営させ、昭和三二年四月に売春防止法が施行されてからは、それを旅館に切り替え、更に昭和四〇年一一月食堂に転業して経営させたりしたが、家族の生活費は専ら被告人の保険外交員としての収入等によって賄っていたところ、昭和四一年夏、糖尿病のため入院療養をしていた際、妻英子から、同女の加入していた誠相互経済協力会(札幌市所在・昭和四〇年一二月発足・元金一〇五〇円うち入会金二〇〇円・満額一〇万二四〇〇円)の会員勧誘パンフレットを見せられ、同会の仕組に感心すると共に、同会会員となるよりも自ら同種の会を創設し、経営した方が利益が多大になると考え、右パンフレットの内容にヒントを得て、退院後、独自に後記「親しき友の会」の仕組を考案し、昭和四二年三月、当時の住居であった熊本県上益城郡甲佐町大字岩下七〇番地の自宅の二階を改造して事務所にあて、「第一相互経済研究所」(以下「第一相研」と略すことがある)の名称で、右「親しき友の会」の事業を開始し、自ら親戚、知己を勧誘し同会の初代親会員(いわゆるトップ会員)九名を作ったほか、会員募集を自ら行ない、家族には事務的な仕事を手伝わせ、右第一相研の所長として、第一相研を主宰し、右会の運営にあたっていたが、同年七月には前記勤務先の保険会社の上司から、第一相研の名称を変更するように要求されたことや、会員数も増加して事務量も増加したことなどから、右保険外交員を辞め、以後、第一相研の事業に専念し、昭和四五年一二月、後記「中小企業相互経済協力会」発足のころから、第一相研を「天下一家の会」とも呼ぶようになり、更に同会の会長の肩書を付するようになったものである。

第二被告人の事業内容

被告人は、前記のとおり、昭和四二年三月から第一相研の名称で、当時の前記住居に事務所を置き、「親しき友の会」を創設し、入会申込者と会員との間の一定額の金員贈与契約類似の無名契約の成立・履行を仲介する報酬および費用として、入会申込者から入会金名目で一定額を徴収する事業を営むようになり、当初のうち入会申込者も増加したが、右会の仕組では入会後目標額取得までかなりの期間を要し、元金も少額であるうえ、後輩会員の獲得に苦労する煩わしさも加わって、会員の中には元金の回収が不能となっても後輩会員の獲得に熱意を示さない者が増加し、昭和四三年初めごろをピークに入会申込者数は減少するようになり、その結果、被告人の右事業収入も減少し、更に昭和四四年二月に第一相研事務所を肩書住居に移したが、右事務所にあてるための不動産の購入費用がかさんだことなどから、右事業の経営状態が芳しくなくなったため、右状態を打開すべく、第一相研の入会金増収を図り、そのため魅力のある方式の会にするよう種種工夫をこらし、「第一相互経済協力会」・「交通安全マイハウス友の会」・「中小企業相互経済協力会」の各会を次次に考案し、これらはいずれも第一順位に昇格する前に目標額(満額)の一部を二代後輩会員(孫会員)から取得できるようにし(孫取り金制度)、短期間内に元金回収を可能ならしめることによって入会者に後輩会員獲得の熱意を持たせ、また、かつて保険外交員であった経験を活かし、「第一相互経済協力会」・「交通安全マイハウス友の会」の会員に対し、入会後一年間保険をかけ、前者については交通事故その他の事故により被害を蒙った場合一〇〇万円を限度とする見舞金、後者については交通事故により被害を蒙った場合五〇〇万円を限度とする見舞金を支給し(なお、両者について、昭和四六年一月以降は、保険会社の保険による見舞金制度を第一相研による相互共済見舞金制度に切り換えている)、「中小企業相互経済協力会」の会員に対し、入会後一年間に限り、会員が死亡もしくは傷害を受けた場合三、〇〇〇万円を限度とする見舞金を支給し(相互共済見舞金制度)、更に右「第一相互経済協力会」・「交通安全マイハウス友の会」・「中小企業相互経済協力会」の各会員に対して入会後一年間に限り、研修保養所の無料宿泊・飲食の特典を与えるなどの仕組とし、これらを昭和四四年六月から昭和四五年一二月までの間に順次創始し、会員を勧誘した結果、昭和四五年は前年度に比較して入会者数が一〇倍以上に増加したが、右各会についても、その事業内容は、前記「親しき友の会」と同様入会申込者と会員との間の一定額の金員贈与契約類似の無名契約の成立・履行を仲介する報酬および費用として入会申込者から入会金名目で一定額を徴収するものであるところから、右事業に対し、生産性がなく大衆の射倖心を煽る不健全なものであると批判されたため、これを回避する意図もあって、出稼ぎ農家に対する救済と消費者に廉価で良質の牛肉を供給することを目的とするものであるとして、昭和四五年一一月「畜産経済研究会」を考案、創始し、和牛の飼育預託をなし、受託者から諸経費の名目で一定額を徴収する事業を営み、以上各事業を主宰することにより、多額の収入を得ていたものである。

ところで、右各会の仕組は次のとおりである。

(一)  親しき友の会

被告人が昭和四二年三月に考案、創始したもので、入会申込者は、第一相研の指定する第一順位の先輩会員に一〇〇〇円を送金して贈与し、且つ、第一相研に一〇八〇円を払い込むことによって、第六順位で加入することになり、右入会者は、新規入会者を四名獲得することによって、順位が六番から五番に昇格し、以下同様に新規入会者が各自四名入会者を獲得することによって、その都度順位が五番から四番、三番、二番、一番と順次昇格し、第一順位になったとき、六代目の後輩会員一〇二四名から各一〇〇〇円づつ合計一〇二万四〇〇〇円を送金されて右金員を受贈する仕組である。

(二)  第一相互経済協力会

被告人が昭和四四年六月に考案、創始したもので、入会申込者は、第一相研の指定する第一順位あるいは第五順位の先輩会員一名に三万円を送金して贈与し、且つ、第一相研に一万円を払い込むことによって、第七順位で加入し、右入会者は、新規入会者を二名獲得することによって、順位が七番から六番に昇格し、以下同様に新規入会者が各自二名入会者を獲得することによって、その都度順位が六番から五番、四番、三番、二番、一番と順次昇格し、第五順位になったとき、七代目の後輩会員二名から各三万円づつ合計六万円(「孫取り金」と称する金員)を、第一順位になったとき、七代目の後輩会員三二名から各三万円づつ合計九六万円を、それぞれ送金されて右金員(入会後から最終送金されるまでの合計金額は一〇二万円である)を受贈する仕組である。

(三)  交通安全マイハウス友の会

当時、大衆の持家への希望が強くなっていたところ、前記各会による取得金額では住宅建設資金として不十分であったため、会員の取得金額を大幅に増加させ、前記の各種の特典を付与することによって、多数の入会者を獲得し、大幅な事業収益を図る意図のもとに、被告人が昭和四四年一二月に考案、創始したもので、入会申込者は、第一相研の指定する第一順位あるいは第六順位の先輩会員一名に八万円を送金して贈与し、且つ、第一相研に二万円を払い込むことによって、第八順位で加入し、右入会者は新規入会者を二名獲得することによって、順位が八番から七番に昇格し、以下同様に新規入会者が各自二名入会者を獲得することによって、その都度順位が七番から六番、五番、四番、三番、二番、一番と順次昇格し、第六順位になったとき、八代目の後輩会員二名から各八万円づつ合計一六万円(「孫取り金」)を、第一順位になったとき、八代目の後輩会員六四名から各八万円づつ合計五一二万円を、それぞれ送金されて右金員(入会後最終送金されるまでの受取り金額は合計五二八万円である)を受贈する仕組である。

(四)  中小企業相互経済協力会

銀行等の金融機関からの融資が容易でない中小企業経営者の資金繰りに役立たせるものであるとして、会員の取得金額を飛躍的に増加させ、前記の各種の特典を付与することによって、多数の入会者を獲得し、飛躍的な事業収益を挙げる意図のもとに、被告人が昭和四五年一二月に考案、創始したもので、入会申込者は、第一相研の指定する第一順位あるいは第六順位の先輩会員一名に五〇万円を送金して贈与し、且つ、第一相研に一〇万円を払い込むことによって、第八順位で加入し、右入会者は新規入会者を二名獲得することによって順位が八番から七番に昇格し、以下同様に新規入会者が各自二名入会者を獲得することによって、その都度順位が七番から六番、五番、四番、三番、二番、一番と順次昇格し、第六順位になったとき、八代目の後輩会員二名から各五〇万円づつ合計一〇〇万円(「孫取り金」)を、第一順位になったとき、八代目の後輩会員六四名から各五〇万円づつ合計三二〇〇万円を、それぞれ送金されて右金員(入会後最終送金されるまでの受取り金額は合計三三〇〇万円である)を受贈する仕組である。

(五)  畜産経済研究所

前記のとおり、前記各会はいずれも生産性がなく、大衆の射倖心を煽る不健全なものであると批判されたため、これを回避する意図もあって、出稼ぎ農家に対する救済と消費者に廉価で良質の牛肉を供給するものであるとして、被告人が昭和四五年一一月に考案、創始したもので、和牛一頭当り一万円の入会金を徴収して会員に和牛の貸付けを行ない、右入会金を払い込んだ会員に一年間右和牛を飼育させ、その間会員に必要な飼料を供給し、飼育期間の終わった時点で飼育牛を売却したうえ、その販売代金から元牛の購入代金および飼料代金を控除した残額を会員の収益とする仕組であり、右入会金は、右事業を行なうことの対価・報酬として入会者から徴収していたものである。

ところで、右「畜産経済研究会」を除く前記各会を発足させる場合の方法は、「中小企業相互経済協力会」の例で説明すれば、次のとおりである(「親しき友の会」および「第一相互経済協力会」の各会を発足させる場合の方法も、トップ会員数が前者においては九名、後者においては七名であることおよび送金額が前記の如く異るほかは、「中小企業相互経済協力会」と同様であり、「交通安全マイハウス友の会」を発足させる場合の方法も、送金額が前記の如く異るほかは、「中小企業相互経済協力会」と同様である)。

すなわち、その創設時においては、加入者が送金すべき第一順位または第六順位の加入者がないため、仮の親八名(便宜上、ア・イ・ウ・エ・オ・カ・キ・クとし、これを初代親会員またはトップ会員と称する)を定め、これを次表のように組み合わせ、相互に五〇万円を送金し合うのである。

段階

A列

B〃

C〃

D〃

E〃

F〃

G〃

H〃

a1

I列

a2

J〃

a3

K〃

a4

L〃

a5

M〃

a6

N〃

a7

O〃

b1

a8

P〃

b2

2名

Q〃

↓トップ会員以下が通常の方法で加入者を獲得

b3

4名

R〃

b4

8名

S〃

b5

16名

T〃

b6

32名

U〃

b7

64名

V〃

b8

128名

W〃

まずA列の組み合わせでは、P列のアはI列のクに五〇万円を送金する。右アが加入者二名(Q列の二名)を獲得した場合、そのうち一名はJ列のキに五〇万円を、他の一名はO列イに五〇万円をそれぞれ送金する。続いてQ列の二名がR列の加入者四名(Q列の二名が各二名あて勧誘した合計四名)を獲得した場合、R列の四名のうち二名はK列のカに五〇万円あて合計一〇〇万円、他の二名はP列のアに五〇万円あて合計一〇〇万円をそれぞれ送金する。以下右にならって送金される。

B列ないしH列についても右と同様である。

以上の組み合わせで発足すると、アはA列の八段目において前記のとおりクあてに五〇万円を送金するが、一方R列の四名中の二名から各五〇万円あて計一〇〇万円、およびW列の一二八名中の六四名から各五〇万円あて合計三二〇〇万円の送金を受けるほかに、

(1)  B列のアとしてP列のイから五〇万円

(2)  C列のアとしてQ列の二名中の一名から五〇万円

(3)  D列のアとしてR列の四名中の二名から各五〇万円合計一〇〇万円

(4)  E列のアとしてS列の八名中の四名から各五〇万円合計二〇〇万円

(5)  F列のアとしてT列の一六名中の八名から各五〇万円合計四〇〇万円

(6)  G列のアとしてU列の三二名中の一六名から各五〇万円合計八〇〇万円

(7)  H列のアとしてV列の六四名中の三二名から各五〇万円合計一六〇〇万円の各送金を受けることとなる。

したがってアはトップ会員になっただけで前記(1)ないし(7)の合計三二〇〇万円を利得する計算となる(イないしクについても同様)。

これがため、トップ会員は各地域における新加入者募集の中核として活動したものが多かった。

第三罪となるべき事実

被告人は、前記のとおりの事業を営んでいたものであるが

一  昭和四三年度における総所得金額は三二三二万〇九五三円であって、これに対する所得税額は一六七二万一七〇〇円であるのに、正当な理由がなく所得税の確定申告期限である昭和四四年三月一五日までに所轄熊本税務署長に対し確定申告書を提出しなかった

二  昭和四四年度における総所得金額は二六三〇万八四三六円であって、これに対する所得税額は一二八五万九三〇〇円であるのに、正当な理由がなく所得税の確定申告期限である昭和四五年三月一六日までに所轄熊本税務署長に対し確定申告書を提出しなかった

三  昭和四五年度における総所得金額は二六億四六二四万二五三九円であって、これに対する所得税額は一九億六五六二万九七〇〇円であるのに、同年七月二四日ごろから昭和四六年三月一五日ごろまでの間、熊本税務署大蔵事務官小畑和生らが肩書住居の第一相研事務所に赴き、昭和四五年度の所得調査をした際、同大蔵事務官らに対し、「第一相研は法人でも個人でもなく、その財産は会員のものである。入会金は会員に帰属するものであって、被告人個人の所得ではない。被告人は営利事業を営んでいるものでなく、会員相互の救け合い運動を行っているものである」などと虚偽の申し立てをしたうえ、昭和四六年三月一五日熊本税務署長に対し、昭和四五年度における被告人の所得金額は三六万円のみであって所得控除の結果納付すべき税額がない旨虚偽の確定申告書を提出し、もって不正の行為により前記一九億六五六二万九七〇〇円の所得税を免れた。

四  昭和四四年二月から昭和四六年二月までの間、右第一相研事務所において、別紙給与等支払一覧表記載のとおり、毎月被告人の使用する従業員に対し支払った給料および賞与などの給与額は合計一億四二五七万五六五六円であって、これに対し源泉徴収して納付すべき所得税額は合計一八九八万六八二二円であるのに、同表記載の納付日までにそれぞれこれを徴収して納付しなかった

ものである。

なお、昭和四三年ないし昭和四五年の各年度における被告人の右所得の内容およびこれに対する税額の計算は、別紙所得税額計算書、同修正貸借対照表記載のとおりである。

第四証拠の標目《省略》

第五弁護人の主張に対する判断

弁護人は、第一相研は昭和四二年三月以来、会員相互の扶助を目的とする団体としての実体を備えていたものであって、いわゆる権利能力のない社団であり、前記各会の事業は権利能力のない社団としての第一相研がこれを行なったものであるから、右事業による入会金も権利能力のない社団としての第一相研に帰属したものであり、従って、被告人個人の所得ではない旨主張する。

よって、検討するに、権利能力なき社団といいうるためには、団体としての組織を備え、多数決の原則が行なわれ、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理等団体としての主要な点が確定していることを要する(最判昭和三九年一〇月一五日・民集一八巻八号一六七一頁以下)ところ、前掲各証拠によれば、本件犯行時における第一相研の実情は次のとおりであったと認められる。

(一)  第一相研においては、社員資格の得喪、機関の構成、資産の管理等社団に関する重要な事項を定めた定款は制定されていなかった。この点について、弁護人は、昭和四五年一二月上旬に作成された「第一相互経済研究所主旨」と冒頭に記載された書面、同月中旬に作成された「中小企業相互経済協力会御入会のおすゝめ」と題する会員勧誘用パンフレット、あるいは、昭和四六年一月上旬に作成、印刷された「天下一家の会」と題する冊子中「天下一家の会組織活動・第一相互経済研究所主旨」と冒頭に記載された書面に各記載されている主旨・綱領が実質的には定款といえる旨主張するが、右主旨・綱領は、昭和四五年一二月第一相研に入所した真崎武彦において、第一相研の内部の実情を直接見聞するに及び、その実態は被告人の説明とは余りにも隔りのあるもので、各会の会員代表が第一相研の運営、財産運用の基本的決定等に全く関与していないばかりか、その関与の機会すら与えられておらず、被告人個人の事業そのもので、到底社団の形態を持ったものとはいえず、会員は専ら利殖目的のみで各会に加入しているに過ぎず、会員に被告人の説明するところの「救け合いの精神」が全く普及していないことなどその実情を認識するに至り、将来第一相研を社団化し、第一相研は合議体によって運営されるべきものであると考え、今後の実践目標として、右真崎が同月「天下一家の会小論」と題する書面を起案したものであるが、同書面中の第一相互経済研究所主旨・綱領が、被告人から将来の目標としての主旨・綱領とする趣旨で採用され、その結果、印刷、頒布されたものに過ぎないのであり、しかも右主旨・綱領は極めて抽象的であり、構成員の資格得喪に関する明確な定め、総会の構成・運営、理事、監事、その権限等社団の機関についての定め並びに社団の資産管理等に関する定めがないことなど、以上右主旨・綱領の作成経緯および立言形式に徴すると、右主旨・綱領は定款の実質を備えたものとは到底いえない。

(二)  第一相研には、社団の構成員としてのいわゆる社員なるものは存在せず、従って、第一相研の意思が、多数決原理により決定されたことは一度もなく、また、業務執行機関も存在していなかった。この点について、次長(昭和四五年七月から同年一一月までの間)、常務(「中小企業相互経済協力会」発足以降)あるいは理事(「畜産経済研究会」発足以降)の肩書を付された者がいたが、これらは単なる名目的な肩書で、業務執行について何らの決定権も有せず、単に被告人の業務執行の補助者ないし事務分担の責任者に過ぎないものであった。

(三)  前記各会の仕組は全て被告人が独自に考案し(もっとも「第一相互経済協力会」以降の各会の仕組を考案するに際し、一部有力会員からの要望や意見を参考にしているものの、入会金の金額・満期の受領金額等の基本的要素は勿論、孫取り金制度、保険ないし見舞金制度の導入、各会の実施時期については、全て、被告人の一存で決定されている)、各会の初代親会員(トップ会員)の人選、第一相研の職員の採用・解雇等は全て被告人の一存で決定されていた。

(四)  第一相研に送金されてきた入会金の出納管理についても、被告人自ら、あるいは親戚関係にある者を経理責任者としてその任務にあたらせたうえ、毎日被告人に収支結果を報告させて被告人が管理し、普通預金の預金先、限度額を被告人が決定したうえ経理担当者に指示して預け入れさせ、経常支出外の払い出しについては被告人の事前許可を必要とし、定期預金・定額郵便貯金・割引債の設定、管理、処分等については被告人の一存で行なわれ、不動産や多額の支出を伴なう動産等の購入、処分については全て最終的に被告人の意思によって決定しており、また、被告人は給与の支給を受けておらず、被告人とその家族の生計費および被告人個人の借金の返済資金等を入会金から支出し、保養所購入資金や出張旅費等に多額の支出残高が生じた場合でも、これは経理担当者に返還して清算することなく、妻英子に渡して自宅の箪笥に保管し、生活費に充てたり、また、被告人個人の知人、友人に入会金から金員を貸付けたりなどして、第一相研の事業による収入金は被告人個人の財産と同一視していた。

(五)  第一相研の幹部職員らの認識していた第一相研は、被告人が第一相研の名称で各会を主宰、運営し、入会金を徴収する、被告人個人経営の営利事業であり、幹部職員らは被告人個人の使用人に過ぎないと認識していた。

(六)  各会のいわゆる会員は、利殖のため、入会金名目で一定額の手数料を第一相研に支払うと共に、後輩会員を入会させることにより、爾後、一定額の金員を確実に送金してもらえるような各会の仕組みを利用するに過ぎず、会員が第一相研の意思決定あるいは業務執行に関与できる機会は全くないことはもとより、会員に対し第一相研の収支報告、事業報告等がなされたことはなく、また会員自身にも第一相研の構成員として第一相研の事業を運営するというような認識はなかった。もっとも、「第一相互経済協力会」・「交通安全マイハウス友の会」・「中小企業相互経済協力会」の各会員は、入会後一年間に限り、第一相研の保養所等の無料宿泊、飲食等の特典が付与されるが、それは一定の期間に限って一定の施設、サーヴィスを利用できるにとどまり、それ以上の権限あるいは第一相研の構成員たる資格を付与されるものではない。

以上の各事実が認められ、右認定事実によれば、第一相研は、本件各犯行時において、権利能力なき社団としての実体を備えていたとはいえず、被告人個人の事業であったことが明白である。

ところで、押収してある不動産売買契約書によれば、福田ビル購入に際し、同ビルの買主名義が「第一相互経済研究所親しき友の会代表内村健一」と記載されているが、前記認定の事実に照らすと、このことをもって、直ちに第一相研が権利能力なき社団であったとか、あるいは、被告人が第一相研を権利能力なき社団と認識し、且つ、入会金、本部ビル、保養所等を被告人個人の財産ではなく、権利能力なき社団としての第一相研の財産であると認識していたと肯認することは到底できない。そもそも、被告人が右事業における取引について、第一相研あるいは天下一家の会の名称を用いたのは、被告人自身の日常生活上の財産と事業財産とを便宜上区別するためであったと思料され、前記福田ビル購入の際、買主名義に前記の如く「第一相互経済研究所親しき友の会代表」と記載されているのも、同様の趣旨からであると認めるのが相当である。

第六法令の適用

被告人の判示一および二の所為は、いずれも所得税法二四一条本文、一二〇条一項に、判示三の所為は同法二三八条一項、一二〇条一項三号に、判示四の所為はいずれも同法二四〇条一項、一八三条一項に各該当するところ、判示一および二の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、判示三の罪については懲役刑および罰金刑を併科し、判示四の罪についてはいずれも懲役刑のみを科することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるので、懲役刑については、同法四七条本文、一〇条により刑および犯情の最も重い判示三の罪の刑に法定の加重をし、その刑期および所得税法二三八条二項の制限の金額の範囲内で被告人を懲役三年および罰金七億円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により、金一〇〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、諸般の事情を考慮し、同法二五条一項により、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用は、刑事訴訟法一八一条一項本文を適用してこれを全部被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田實秀 裁判官 松尾家臣 裁判官 加登屋健治)

〈以下省略〉

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